私はスーツが好きです。着るのも見るのも好きです。
今日は私がスーツのどんな所が好きで、どのようにしてハマっていったかを書きます。
馴れ初め
私がスーツを着るようになったのは、大勢の方と同様に社会人となって働き始めてからです。それまでの私は衣服に無頓着で「最低限の布さえ纏っていればいいだろう」程度の考え方でした。
スーツを着るのも社会人の一種の制服だからであり、強制されて着ているものでした。
そんな考え方が変わったのは働き始めてから半年程経った頃でした。
就活の際に購入し、ローテーションせずに履き続けていた革靴がダメになったのです。
その靴は大手量販店で購入した合成皮革製でサイズ選びは適当。特別な思い入れもない為にブラッシング等の最低限の手入れすらしていませんでした。そりゃあ壊れて当然だし愛着が湧くはずもありません。
さすがにこんな使い捨て前提の考え方を続けていてはダメだと思い、思い切って定価3万円クラスの本革靴を購入しました。
この靴は事前にネットで靴の選び方を調べて、フィッターさんと時間をかけて相談し、定期的な手入れの仕方も学びました。その結果、毎日の通勤が快適になり身だしなみを気にするようになり、なによりモノを手入れして永く使い続ける楽しさを知ることが出来ました。
さて、こうして本格的な革靴を履くようになったのですが、そうすると靴だけが立派でスーツがボロいというアンバランスさが気になってきてしまいます。俗に言う"沼"の入口ですね。
スーツをオーダーする
革靴を新調し「次はスーツの新調も・・・」と考えていた折り、大手オーダースーツチェーンの”銀座山形屋”様にて割引価格で注文することが出来る機会に巡り合いました。
渡りに船と思い、採寸から仕様選択まで約1時間程度をかけてイージーオーダーをしました。
注文から3週間程経ち、自宅へスーツが届きました。このスーツは
・チャコールグレーのウーステッド100%
・シングル2ボタン×センターベントのジャケット
・シングル5ボタン×背中共地のウェストコート
・シングル×ノータックのトラウザース(+ブレイシーズ)
という極めてシンプルな仕様です。
この際にも革靴同様にオーダーの仕方やスーツの歴史などを勉強したのですが、ここに私がスーツを好きになった最大のきっかけがありました。
私がスーツを好きな理由
私がスーツを好きな理由。それは「スーツが機能的かつ論理的」だからです。
私がずっと衣服に興味がなかった最大の理由は「自分にはセンスがないから」でした。
だいたいお洒落な人間というのは中学生頃から興味が芽生え始め、高校時代はバイト代がすべて古着屋に吸い込まれ、大学時代には雑誌のモデルのような奇抜な衣装を身に纏いはじめるものなのです(偏見)。
しかし私はしまむらとユニクロとguによって全身を固め、"福岡のオシャレエンペラー"さながらの様相で大学時代を過ごしました。当時は長野じゃないです東京です。
そんなオサレ経験値ゼロな私には「人前でかっこよく着飾る」という考え方自体が頭の中にありませんでした。
しかしながら、そんな私を受け入れてくれたのがスーツでした。
なんせスーツは、ルールさえ守護っていれば絶対にかっこよくなるという魔法の衣装だからです。
まずスーツにおいて最も重要なポイントはサイジングです。
このサイジング、カジュアル服においてはルール無用の異種格闘技戦の様相を呈しており、やれタイト目だ、外しのオーバーサイジングだと個人の美的感覚を試される要素がとても大きいです。
一方、スーツにもタイト・緩めの好みこそあれ、基本的には身体に合った適正サイズという基準が決まっています。それは例えばシャツが1.5cm出るくらいだとかお尻が2/3隠れる長さといった具合にです。
このルールさえ大きく外れなければスーツ姿がダサくなる事はそうそうありません。これはカジュアルお洒落に全く慣れていない私のような人間にとっては非常に嬉しいことです。
次にスーツのカッコよさを左右するポイントはシャツ・タイとの色柄合わせです。
ここにも一定のルールがあり、それを軸にすれば大きく外すことはありません。
(ここから先に色や柄の合わせ方について書こうと思いましたが、熱量と文章量がオーバーフローしてしまいましたので別の記事へ回すことに致します。)
かなり割愛しましたが、スーツの選び方や着こなしには脈々と紡がれてきた軸となるルールがあります。そしてお洒落初心者は大きく外さなければ失敗せず、上級者は挑戦することで他と差をつけることができます。
スーツスタイルは初心者も上級者も、元を辿ると同じ基礎理論から派生しています。しかしその受け止め方や解釈は個々人によって千差万別です。この多様性を受け止め、吸収し、楽しむことがスーツスタイルの最大の魅力といっていいでしょう。
スーツの機能美とは
上段ではスーツの論理性について記しました。私が好きなもうひとつの理由は、スーツは機能美を追求した装いだという事です。
スーツにはルールやマナー、ディテールなどが多岐に渡り存在しますが、いずれもそれが定着するまでには必然性があるという事です。
【シャツは袖と襟を1.5cm見える長さに】
これはシャツとジャケットの適正なサイズ関係についての決まりです。見た目としてジャケットから覗く色・柄・素材違いのシャツが美しいということもありますが、その本来の理由はジャケットを汚さない為です。 ドレスシャツは本来、下着として発明されたもので当時はパンツ(アンダーウェア)すら履かずにシャツのみを着用していました(ドレスシャツの裾が長いのは股下で前後を結んでパンツの役割をさせる為です)。
それに引き替えジャケットは仕立てるのに手間も値段も掛かる為、長年使い続けて代々受け継ぐような代物でした。このように大事に扱われたジャケットですが、特に傷みやすいのは手首周りの袖口の首周りの襟でした。この2箇所は着用者の汗を吸うことによって生地が汚れたり虫に食われやすくなったり、可動が大きい上に裏地が無い事で頻繁に擦れるなど、構造上傷みやすくなっているのです。
ジャケットは補修などを行いながら受け継いでいくものです。とはいえ、この2箇所だけ毎度毎度修復するのも大変です。そこでシャツの袖と襟は少し長めに出すことでジャケットと皮膚の直接の接触を防ぎ、緩衝材としての役割を果たすようになりました。
このように、シャツのルールはその機能性がありきで定着し、なおかつ美的感覚にも訴える要素すら取り込んでいったのです。
とまぁ、ひとつウンチクを語るだけでもこの文章量になってしまいました。続きはまた別記事で・・・。
とにかく!スーツは知れば知る程、美しく永く着用する為の工夫がところどころに施されているということを実感するのです。その先人たちの知恵の集積を身を以て体感することができる。これがスーツスタイルを楽しむことの第二の醍醐味と言えます。
終わりに
論旨をまとめると「スーツには歴史と知恵が詰まっており、それを勉強すれば必ずカッコよくなれる」ということです。
「かっこいいスーツ」はそれを着ることで外観が良くなります。しかしそれはただ高いスーツを着ればいいという事ではありません。そこに秘められた理論や歴史を学び、取込み、表現することで、内面から自信や楽しさを溢れさせることが大事なのです。
そんな知的な楽しみを自ら発信し、相手の立ち姿から受信する。それがスーツスタイルの醍醐味であり、私がスーツを好きな理由です。
それでは次回も、なにとぞよしなに
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